宮古の人が読みあげる民話８: 婆、いるか / 読み手: 砂川博明さん

『婆ばば、いるか』

これは沖おき縄なわの話はなしなんだが、昔むかしね、仲なかの良よいおじいさんとおばあさんが暮くらしていました。ある日ひ、もうそろそろ年としだし、先さき行ゆきが分わからないので二ふ人たりは相そう談だんしました。

「死しんでも別わかれるのは辛つらいから、先さきに死しんだほうを、家いえのウプフツガミの中なかに入いれて置おいて一いっ緒しょに生せい活かつしようね」と、おじいさんが提てい案あんしました。

しばらくして、おじいさんが先さきに死しんでしまったので、おばあさんはていねいにカメに入いれて今いままで通どおり、朝あさにはお茶ちゃを入いれてあげるし、夜よるにはお酒さけを出だして「さぁ、おあがりなさい」と言いって勧すすめながら、おじいさんに話はなしかけました。

そこへあるとき、マース（塩しお）売うりがやってきました。おばあさんは、「ちょっと、お兄にいさん、マースを一ひとマスおくれ」と言いいました。ところが、そのマース売うりはあいにく枡ますを隣となりに忘わすれて来きていて、仕し方かたないのでおばあさんは「どれ、わしが取とってくるので、その間あいだ、留る守す番ばんしていてくれ。ただ、私わたしが居いない間あいだにウーニという声こえがしたら、はいと返へん事じをしておくのだぞ」

ばあさんが言いった後あと、マース売うりは、不ふ思し議ぎなことを言いうもんだと思おもいながら待まっていました。しばらくすると、家いえの奥おくから「ウーニ、ウーニ」という声こえがする。あれ、ほんとに声こえがするよ、マース売うりは辺あたりを見み渡わたしましたが、人ひと影かげはありません。それでも声こえはする。不ふ思し議ぎに思おもいながらも声こえのするカメのところへ近ちかづいて行いきました。口くちの大おおきい瓶びんなので、ついひょいと覗のぞき込こみました。

「うわー」そこには、ミイラ状じょう態たいのじいさんが座すわっていました。あまりの怖こわさに持もっていた塩しおをじいさんにぶっ掛かけ逃にげ去さりました。塩しおをかぶったじいさんは、もう何なにもしゃべらなくなってしまいました。

そんなことがあって、昔むかしの人ひとたちは、死しんだ人ひとと生いきた人ひとを切きり離はなすために塩しおをまいたということです。塩しおはそんな役やく目めもあるんだよ、大だい事じに使つかおうね。

（話わ者しゃ／狩かり俣また寛かん教きょう＝上うえ野の）