小川京子さんは、宮古島出身のバスケット・アーティストです。世界各地で研鑽を重ね、現在は、宮古島にアトリエを持たれる小川さんに今回、民話を読み上げることを頼みました。せっかくならば「クバ(ヤシ科のビロウ)」の民話がいいということで、宮古島のクバにまつわる民話を読んでもらいました。この民話は、2015年2月に宮古島市総合博物館で行われた、第28回企画展「クバものがたり」の際に作成された資料にも、小川さんの希望で掲載されています。
小川さんは、バスケット・アーティストとしてご自身の「作品」を作ることだけではなく、その素材となるクバと宮古島の関わりについても複眼的に、長期的視野に立って考察されています。企画展の資料の中にも調査がまとめられていますが、クバという植物が宮古島の暮らしの中で民具として欠かせなかったこと、また、祭祀としても使われおり、御嶽のそばに必ず植えられていた植物であるという歴史など、クバに初めて出会う人にとっても、クバの持つ象徴性を教えてくれます。バスケットの作品を創作するだけではなく、その素材となる一つ一つの植物に対して敬意を払い、真摯に向き合う姿勢には、アーティストとしてのご自身が反映されているように思えます。
小川京子ギャラリー
Ogawa Kyoko Gallery---Basket from Native Okinawa
http://www.studio-yui.com/index-j.html
宮古島市総合博物館企画展資料: 『クバものがたり 一』 神のきねと鬼のきね
んきゃーんつぁ(昔ね)、城辺の七又という村の女が、一所懸命織った上布を売りに平良へ歩いて出かけました。いろいろと用事を済ませ、帰ろうとするともう辺りは暗くなりかけていました。「急がなくっちゃ」女は焦って足早に歩きはじめました。必死に歩いて村の近くまで来ると、ぽっと明りが一つ見えました。女はほっとした途端に疲れがでてきました。「ごめんください、少し休ませてください。」中から大男が現れ、「良いところへ来た。この火の番をしておれ」と言って外へ出て行きました。
家の中には、何やら大きな鍋がぐつぐつ言っています。女は、何だろう、と蓋をそっと開けてみました。「ギャー」何と人の手や足が煮えたぎっています。しまった、ここは鬼の家だったのかと思って逃げようとしたところへ、鬼が帰ってきました。「お前見たなー、食ってやるー」。女は捕まえられ、ひもでぐるぐる巻かれて家の隅に投げ飛ばされました。女はどうやってここから抜けだそうとかと、いろいろ考えた末、「便所にいきたーい」と叫びました。鬼はひもをつけたまま、外にある便所に行かせました。そして、「まだかー」ぐいとひもをひっぱるのです。女は「まだまだ」と言いながらひもをほどき、近くにあったビンク(ハマユウ)に括りつけ逃げ出しました。気がついた鬼は追いかけてきました。女は御嶽に逃げ込み、神様に助けを求めました。
「ここに女が来たはずだ!早く出せー」鬼がわめいています。神様は「女が欲しけりゃ、わしと賭けをしよう。長い石を放り投げ、わしの石が立ったらおまえの首をもらうぞ。そのかわり、おまえの石が立ったら女を渡そう」勝負は神様にありました。「約束だ、おまえの首をもらうぞ」と言って、鬼の頭を切りおとし、クバの葉に包むと「宮古のクバが青々と生えているうちは、降りてくるなー」と言って、空高く天に放りました。
それで今でも、鬼は天から下をのぞいてクバの木が枯れるのを今か、今かと待っているのだそうです。
宮古島市総合博物館企画展資料: 『クバものがたり 二』 漲水御嶽
「神社境内に久葉の老樹が数株植えてあるが、これは二神(古意角・姑依玉)が島内の悪魔を退治し、それまで島内の人民を苦しめていた鬼をいましめ捕らえて黄泉国に追放した時に植えられたものだと言い伝えられていて、もし漲水御嶽神社の久葉が枯れたら鬼が現れるであろうと民間に言い伝えられている」
編集:與那覇史香・小川京子
第28回企画展「クバものがたり」
宮古島市総合博物館
2015年2月13日