下地イサムさんは、宮古島出身のシンガー・ソングライターです。島ことば(宮古語)と日本語、時には英語なども使い、マルティリンガルな言語の世界観を自由に行き来する曲の数々は、宮古島や沖縄県だけではなく日本全国の幅広いファンを魅了しています。
民話の世界にもつながる、宮古島の世界観を歌で表現されている下地イサムさんに、今回、読み手のトップバッターをお願いしました。イサムさんのオフィシャル・ウェブサイトの中では、島ことば(宮古語)で歌う2016年の最新作『スマフツ~The Golden Language〜』のサンプルが聞けます。こちらもぜひ聞いてみてください。
下地イサムさんの「オフィシャル・ウェブサイト」
http://isamu.arize.jp/
下地イサムさんの『スマフツ~The Golden Language~』のサンプルが聞けるページ
http://isamu.arize.jp/archives/discography/%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%95%E3%83%84
『ウンタラの主の話』
昔ね、ウンタラの主という、力持ちで頭のいい、すべてをかね備えた男がいました。
ところが、この島には昔から鬼が住んでいて村人を苦しめていました。そこで、ウンタラの主は「よし、ぼくがその鬼とやらをやっつけてやろう」と思い立ち、出発しようとすると、そこへ小鳥が飛んできて、「ピーも一緒に連れて行ってくれー」と鳴いたそうだから、「よしよし、ついてくるがいい」といって歩き出しました。
木刀片手に歩いていると、今度はハチが現れ「ブンもお供させてくれー」とうなくもんだから、「いいだろう」といって歩いていると、今度はムカデが出てきて、「いいなぁ、おれもアグ(友)にしてくれんかー」と頼むので、心の広いウンタラの主は「みーんな、まとめてついて来い」と言うとジャッカ、ジャッカ歩き出した。それを見たアコウ木と臼も、「おもしろそうだから、ついて行こう」といって後をついてきたので妙な行列が出来てしまいました。
そうしているうちに、鬼の家に着きました。ちょうどいいことに、鬼は昼寝の真っ最中。「しめしめ」、ウンタラの主は、みんなを集めて作戦を練りました。「ヒソヒソ、ポソポソ…よし、決まった」。さっそく、作戦開始!まず初めに、ウンタラの主が、鬼の寝ている床下へもぐって、床の隙間から木刀でゆっくり、グッファ、グッファと突きました。すると、鬼はモゾモゾと動き出し、「今日はいやにノミが多いのぉ」といいながら、台所へノミ退治に降りて行きました。鬼はかまどで、火を付けようとすると、灰の中に隠れていた小鳥はパタパターと飛び出したから、びっくり仰天、「アガイタンディーあれーー」、目にも灰が入ってしまいました。鬼は、目を洗うために水がめのところへ行ってひしゃくを取ると、それにへばりついていたムカデが鬼の腕をチクリ!「ヒヤーッ」、あわてた鬼は庭へ飛び出しました。すると、今度は戸口の柱に止まっていたハチが飛んできて、体中、チクリ、チクリー。
「アガー、アガー(いたい、いたい)」。庭中めちゃめちゃに走り回っているところへ、アコウ木が足をひっかけ倒しました。その上に臼がドスーン。ぐったりした鬼に、ウンタラヌ主は、ここぞとばかり、木刀で頭をメーン。鬼はとうとう死んでしまいました。
バンザーイ、バンザーイ。みんなは鬼の家の宝物をみんなもらって帰ってきました。そして、村も平和になったということです。
(話者/与那原カマド=池間島)