『夢見小僧』
昔、二人の兄弟があって、その弟がある夜夢をみたそうです。弟は兄に「昨夜、恐い夢をみたよ、恐ろしくて人に話せるようなものじゃないさ」と言いました。兄は「そんなに恐い夢ならわしにも聞かせろ」といいましたが、弟はできないと断り続けました。「恐い夢は人に話さないと大変な目に会うぞ」と言って脅かしますが、「できない」の一点張りです。
兄はとうとう頭にきて、弟を鬼の住む洞窟に連れて行くと、そこに縄でくくりつけもう一度聞きました。「どんな夢をみたか言いなさい、言わないとこの洞窟に放り投げるぞ」と言いました。それでも、弟は「話せない」と言うと、兄は弟を縄で縛りつけ穴の中に降ろそうとしました。すると縄は切れて弟は穴に真っ逆さま、鬼たちの住処まで落ちていきました。「食べ物がきたぞ」と鬼たちは喜び弟をつかまえ「なんでお前はここに落とされたか」と聞きました。
弟は恐る恐る、「昨夜恐い夢をみて、兄にそれを話せないと言ったもんだから…」と言うと、「どんな夢をみたか?」と興味深そうに寄ってきました。ここでも弟は「これだけは誰にも話せない」と言うと、「それじゃ、わしらの大事な飛び衣をやるが、話してくれるか」と聞いたそうです。弟は「それはどうすれば飛ぶんですか」と聞くと、「簡単だよ」と言って飛び方を教えました。弟は、「それじゃ、飛んでみよう、ほんとに飛べたら、ぼくの夢を話してやるよ」と言って飛び衣を着ました。
弟は、飛び衣を着てどんどん上がっていきました。そのまま御主の家まで行くと、屋根に降りました。みんなは「面白い男が天から降ってきたぞ」と言って集まりました。そこには年頃の娘がおり、婿を探しているところでした。御主はこの男は将来大物になると見込み、弟を跡取りにして娘と結婚させることにしました。
弟がみたという夢は、お月さまに頭を乗せ、太陽に足を投げ出して眠っている夢だったそうです。まさに太陽は御主の跡継ぎ、月は娘の婿になることでした。すごい話は実現するまで人には話さないということですよ。
(話者/西原マツ=城辺)