『ムインズマの赤牛』
昔、カタイラマーガといって力持ちの男がいました。昔の家は壁を竹やススキで編み、屋根には茅を乗せて作ったものだが、その壁をクビといってね、それを作るためにある日、カタイラマーガは石山の竹を取りにいきました。なにしろ、力があるので道具なんて要りません。素手で竹をグッタグッタと引き抜き、山のような束にするとヒョイとかついで帰りました。
途中、のどが渇いたので水を求めて歩いていました。しばらく行くと、ムインズマという女だけの村に入りました。「水を一杯恵んでください」と村の女に頼むと、「あなたはひょっとしてカタイラマーガさん?力持ちって聞いていますが、ちょうどいいところへ来たわ。今もちつきをしていますが、あなたのその余る力でもちをついてくれませんか」と言います。
「いいだろう」マーガは袖をまくり上げながら、ウスと杵を持ってくるように言いました。女たちはマーガの力をためしてみようと鉄のウスと杵をもって来て差し出しました。マーガは女たちの下心に気づいていたので、「俺がこれをつくと割れてしまわないだろうか」と言うと、女たちは口々に「大丈夫だよ、お前さんがどんなに扱ったって平気だよ」と言ってはやしました。
マーガが思い切って両腕を振り下ろすと、ドスンという大きな音と共にウスはひび割れ、もう一度ドスンとつくとウスは二つに割れてしまいました。「ほら、言っただろう」とマーガが得意そうに言うと、女たちは、うわさどおりの怪力に言葉を失いました。
すると、今度は「それなら、うちらを守っている赤牛は倒せるか」と言って山のような赤牛を引っ張ってきました。鉄綱をつけた赤牛はマーガを見ると、土煙をあげて突進してきました。女たちは、「お前なんか、赤牛に食べられてしまう運命だよ」といって、はやしたてました。「そこまで言うのなら、容赦はせん」と言ってマーガは赤牛の二つの角をつかむと、えいっとばかり捻りました。すると、赤牛の首はぐきっと折れ、あっけなく死んでしまいました。
女たちは、このばか力には、打つ手がないと思ったかどうか「ウバイガウバイ」と言って謝りました。そして、守り神であった赤牛がいなくなった今、もうここには住めないといって、全員移動することにしました。マーガが「どこへ行くのか」と聞くと、海を渡って伊良部島のピャーザ辺りに行くということでした。
しばらくして、気になったマーガが海を渡りピャーザに行くと、女たちはあきれて「あんたは何て恐いもの知らずだ。確かに勇者だ」と言ってごちそうを作りもてなしました。最後にビウガサ(クワズイモ)に包んだみやげまでもらって帰ってきました。島に戻るなり、みやげの包みを開けてみると、一つは伝染病のコーシャー(疥癬)の種、もう一つはアカの種だったそうです。それから、コーシャーとアカは島中に広まったという話だ。
(話者/上地金)