『ヤマグの話』
昔、村一番の見事な馬をもつ家があったそうです。その馬を盗もうとヤマグが家にしのび込むと、その家の主人は長患いで寝ていました。よくよく見ると、主人の枕元に大きな青大将がいて、主人の命を吸おうと身構えていました。さすがのヤマグも馬を盗むどころではなく、青大将をつかまえて尻尾を縛り、上からつるして、口を寝ている主人の口に近づけて息を絞り出し、主人に吸わせたそうです。
おかげで、今にも死にそうだった主人は、息を吹き返しました。ヤマグは、主人にこれまでのことを話すと、大変感謝して、「馬でも何でも好きなものを持って行ってください」と喜び、馬を与えたようです。
また、ヤマグが馬を盗みにある小屋に入りました。そこへトラがいきなり飛び出してきました。びっくりしたヤマグは盗もうとした馬が逃げたのかと勘違いし、トラの背中に飛び乗りました。これにはトラのほうがびっくり、一目散に駆け出しました。
そして、トラは大きなデイゴの木の根元の穴に飛び込んだそうです。立派な尻尾が外にはみ出しているので、ヤマグは持っていた鉈で切り落としました。するとトラは「気持ちいいー」と言って、そこにいたもう一匹のトラも尻尾を出してきました。ヤマグは「このやろー」と言ってこれも切り落としました。それからだそうです、トラの尻尾が短くなったのは。お人よしなヤマグもいたもんです。
(話者/伊志嶺マツカマ=上野)