42) 入れる口は大きく出る口は締めよ

『入いれる口くちは大おおきく出でる口くちは締めしよ』

昔むかし、東ひがしの家いえと西にしの家いえがあり、東ひがしは裕ゆう福ふくで西にしは貧びん乏ぼうでした。ある日ひ、東ひがしと西にしの主ぬしがいっしょになり、「今きょう日はムヌスーの家いえに行いって二ふたり人の将しょう来らいを占っうらなてもらおう」ということになりました。

ムヌスーは、まず東ひがしの家いえの主しゅ人じんを占いうらな「あんたは、一いっ生しょう裕ゆう福ふくに暮くらせる人ひとだね、寝ねておっても食たべていけるよ。良いよ運うんをもった人ひとだ」と言いいました。ところが、西にしの家いえの貧びん乏ぼう者ものには「あんたは一いっ生しょう懸けん命めい働はたらかなければいかんぞ、働はたらいても蓄えたくわることをしないと一いっ生しょう貧びん乏ぼう暮くらしだ。そして、入いれる口くちは大おおきく、出だす口くちは締めしなさい」と言いいました。

それから、ムヌスーが言いったように、東ひがしの家いえの主ぬしは働はたらかずに遊あそんでばかりいました。西にしの家いえの貧びん乏ぼう者ものは、それまで以い上じょうに働はたらき、ミカンの木きを植うえたり、粟あわをまいたり、金かねになる物ものなら何なんでも植うえました。そうして、少すこしずつ蓄えたくわもできるようになりました。

そんなある日ひ、東ひがしの主ぬしは、西にしの家いえの様よう子すを見みに行いきました。すると、みんな畑はたけに出でているようで誰だれもいませんでした。仕し方かたなく、庭にわに植うわったミカンの木きの下したでごろんと横よこになり帰かえりを待まつことにしました。上うえを見みると、何なんとミカンがたわわに実みのっています。「おお、これはすごいなー」と起おき上あがろうとしてミカンの木きを蹴けってしまいました。すると、実みがぱらぱらと落おちてきました。

主ぬしは考かんがえました。足あしを動うごかしただけでこんなにミカンが採とれるのに、体からだ全ぜん体たいを動うごかしたら…と思おもって家いえに戻もどりましたが、もう蓄えたくわはほとんど食たべつくしてしまい、どうにもならなかったようです。それに比べくら、西にしの家いえの人ひとたちは一いっ生しょう懸けん命めい働はたらいたのでどんどん豊かゆたになり、老ろう後ごは幸しあわせに暮くらしたということです。

（話わ者しゃ／砂すな川かわ泰たい信しん＝城ぐすく辺べ）