『死の知らせ』
戦後間もない頃の話です。当時、地方の人たちは平良に出るときの乗り物といえば、荷馬車かバスでした。そのころのバスは前パナジが長く突き出ていました。
ある日のこと、新城に住む男性が、映画バス(映画が終わって午後十一時ごろ出る最終バスのこと)に乗って帰宅したときのことです。さて、バスが城辺町役場を過ぎた頃、男性の知る新城の老人が手を挙げて乗り込んできました。運転手は、老人がバスに乗り込んだのを見届けバスを走らせました。
バスは終点の保良を目指して走っていて、まもなく新城のおっぱい山を見下ろすナンコージにさしかかりました。すると急にバスの前パナジを激しい羽音を立てて鶏が飛びあがりました。運転手は眠気も吹っ飛び、一瞬何が起こったのか分からず、ただ前に白く伸びるナウサァ道を見つめました。すると今度は、前方を走る人間の足裏でした。
運転手はそれに気をとられ、夢中で白い足裏を追ったのです。いつの間にアクセルに力が入り、バスはどんどんスピードを上げていきました。乗客たちは、運転手の異常な様子に不安を隠せず、必死に座席にしがみつきました。男性が、運転手の行動を見かね、近づいて「おい、どうした、何があった」と肩を強く叩くと、「ああー、いやー」と、あいまいな言葉と共に我に返った様子でした。「もう少しで事故になるところだったぞ」と、男性が言うと「えっ、そんなに」。「だいぶ、スピード出ていたし、ほらもうカーブだぞ、あのスピードじゃ、そこのカーブは曲がりきれなかったさ」と話しながら、運転手は冷静さを取り戻していった。そのうち、バスは新城の停留所に着いたので、男性は降りようとして「おじー、家に着いたぞー」と先ほどの老人に声をかけました。ところが、その老人の姿は消えていました。
翌日のことです。男性はこの老人が昨夜亡くなったことを知るのです。
(話者/上原泰一)