『蛙婿入り』
昔、とても仲の良い夫婦がおりました。ところが、二人は子宝に恵まれませんでした。年を取ってくるとますます焦り、毎日のように神さまに「どうか、私たちに子宝をおさずけください」とお祈りしました。その祈りが届いたのか、妻は身ごもり、いよいよお産の日が来ました。ところが産まれた子は蛙でした。「グルラ、グルラ」と泣き、二人はただ驚くばかり。でも、二人にとっては長年待ったかわいい子どもです。大事に育てることにしました。
しばらくすると夫婦は、「こんな子なら生まなければよかった。人前には出せないし、お隣さんに分かったら何といわれるかわからない」と言って悲しみました。ところが蛙は、そんな両親の嘆きをよそに、お腹がすくと水の中からパタパタと出てきて親と一緒に食事をし、また水の中に帰っていくのです。こうして二十年が経ちました。
ある日、蛙の息子は人間の言葉を使うようになります。そして、「母さん、隣村に美しい娘がいるので、ぼくはその子を嫁にしたい」と言い出しました。母親はびっくりして「お前のような者に来るような嫁はいない」とはっきり言いましたが、息子は自信ありげに「大丈夫、いいから行って話をまとめて来て」と言います。仕方なく、母親はその家に、みやげ物やごちそうをたくさん作って行くことにしました。
家を見つけましたが、母親は何と言って入ったら良いか分からず、家の前でうろうろしていました。そこへ娘がやってきて「何かご用でしょうか、よかったら中へ入りませんか」とやさしく誘い入れました。母親は娘の両親の前で、もじもじしていましたが、ここまで来て、何も言わず帰るわけにもいかないと、ありのままを告げ、「娘さんをうちの子の嫁にもらえないだろうか」と言いますと、両親はカンカんになって怒りだしました。「何で、うちの大事な娘を蛙の嫁にしなくてはならないんだ、帰れ、帰れ」
ところが、その娘は「遠いところを、せっかくやってきたのに、どうして怒らなくてはならないの。私なら構いませんよ。この人の家に嫁に行きます」と言い出しました。母親はこの言葉に救われ、やっとの思いで家に帰りました。待ちかねていた蛙息子はさっそく「どうだった」と聞きました。「あの娘は、やさしい子だ。あんたの嫁に来てもいいと言ってくれた。でも両親はすごい剣幕で怒っていたよ」と言うと、「本人さえ、納得してくれたら、それで十分だよ」と言うと、その日から蛙息子の様子が変わりました。
昼間は相変わらず、水の中で「グルラ、グルラ」としているのに、夜になると姿が見えなくなっていました。母親は心配になってきました。ほんとうにあの娘はうちの蛙息子を認めてくれるんだろうか、と。それからしばらくして、娘の家から、「結婚式を挙げさせたいので、良い日取りをとってほしい」と言ってきたのです。母親は喜びましたが「娘は夫になる蛙を見て逃げ出さないだろうか」と心配になってきました。ところが、結婚式の当日、蛙息子は立派な若者になって現れ、親たちもびっくりしました。娘は知っていたのです。自分の夫は、昼間蛙の皮をかぶり、夜になるとそれを脱いで普通の人間になるということを。
蛙息子は、学問を教わったこともないのに、読み書きは誰よりもうまく、言葉づかいもしっかりしていました。そうして、みんなに慕われその村の御主になりました。のちに、島の一番偉い人になり、みんなに「ウンタ大親」と呼ばれるようになったということです。
(話者/西原方英=城辺)