『鬼を退治した男の子』
昔、戦いに敗れた御主と妻とその乳母など使いの者たちが命からがら、ある島にたどりついたそうです。そこは、司屋という寺の庭先だった。御主の妻は身ごもっていて、その寺の庭先で男の子を産みましたが、あまりに泣くので、一緒に連れて逃げることもできず、その子をそこに置いて逃げたそうです。
お寺の坊さんは、赤ん坊の泣き声がするので、召使に「見回って来い、男の子なら連れて来てもよいが、女の子なら外に置いてきなさい」と言う。連れて来たのは男の子でした。坊さんは寺で育てることにしました。
子どもが十歳になったころ、母親たちは子ども見たさにその寺を訪ねました。ちょうど、庭を散歩中だった男の子に事情を話すと、「それは私のことでしょう」と言い、母親と子どもは抱き合って喜びました。日が暮れて来たので、母親たちは「今夜ここに泊めてもらえないだろうか」と尋ねると「それはできない、ここは女人禁止の寺なんです。夜が更けないうちに早く帰ったほうがよい、後で私が訪ねていくから」と断られ、母たちは仕方なく先を急ぎました。
途中まで行くと明かりが見えるので、「サリー」と言って入った。すると、老婆が出てきて「ここには、夜中になると鬼が出てくる。それでもよいか」と言う。母親は歩き疲れているので、「それでもかまわない」と言うので、老婆は泊めることにしました。夜中になって、「人間の臭いがするー」と入ってきた3人の鬼は、母親たちを見つけると、一人ひとりガリガリ食べてしまいました。
それから数日が経って、息子は不吉な予感がするので、旅に出たいと坊さんに話すと、「それなら、酒と長い棒、油、鎌、急須の5種類を持っていくように」と言った。言われた通りにして旅に出、老婆の家を見つけた。声をかけると、老婆が出てきて、「先日、きれいな奥さまたちがやってきたが、夜中に鬼に食われてしまったよ」という。それを聞いた男の子は、「それは私の母親たちだ」と言って泣きくずれました。仇をとってやろうと思った子は、そこで泊めてもらい、夜中に訪ねてきた鬼たちを鎌で首を切り退治しました。
男の子は老婆に「鬼の家がこの近くにあると思うが」と尋ねた。「屋根に上ってみたら、赤がわらの家が見えるはずだ。そこが鬼の家さ」と老婆は言う。あれがそうか、男の子は鬼の家を見つけ、母のかたきをとろうとそこに乗り込んだ。鬼の家は重い鉄の扉で閉められていた。男の子はお坊さんにもらった油を扉に塗ると音もなくすっと開いた。
中に入ると大きな座敷があって、その奥のほうに鬼の大将が座っていた。男の子は「どうか、私をここで使ってください」とお願いすると、大将はちょうどお酒を飲んでいるところで、「お前、ここに来てお酌をしろ」と言う。男の子は、持ってきた急須で飲み交わした。実は急須は二つの出口があり、一つはただの水、もう一つは辛酒が出るようになっていた。鬼の大将は、一緒に酒を飲んでくれる男の子をすっかり信用し、進められるままに酒をごんごん飲んだ。そのうち、酔っぱらった鬼の大将はごろんと横になって寝てしまいました。
男の子は、天井にのぼり、そこから鬼目がけて飛び降りました。そして、持っていた棒で思いっきり打ちのめしました。鬼の大将もやっつけ、隣の部屋に閉じ込められていた人たちも救いだしました。中には干された人間たちもおり、その人たちはひき臼にかけられて粉にされていました。男の子が粉に水をかけると、粉は蚊になって飛んでいってしまったという話です。
(話者/砂川カマド=平良東仲宗根)