『ねずみの恩返し』
ンキャーン(昔)つぁ、若い娘が山へまきとりに行くと、村の子どもたちがねずみの子をつかまえて、棒でたたいたり、つついたりして遊んでいたと。娘は子どもたちに
「ツンダラッサ(かわいそうに)、放してやりなさい」と言ったが、子どもたちは
「ンバユ(いやよ)、ウムッシカームヌゥ(おもしろいのに)」と言って、ふざけて放そうとしないさぁ。娘は、
「それじゃ、ねずみを放してやったら、おまえたちには、アダンの実をとってやるよ」と言うと、子どもたちは喜んで放してやったと。ねずみは命からがら、道の側の大きな松の根元に入って行ったそうだよ。
ある日、娘が松の木の側を通ると
「ネェーネェー(姉々)」と呼ぶ声がする。
「アバ!ピンナムヌ(あら、おかしいね)、私を呼ぶのはだぁーれ」
「ネェーネェー、こっち、私ですよ」。よく見ると、この前のねずみの子が松の根元から顔を出しているって。
「あらー、どうしたの」娘はびっくりしたさぁ。
「この前は助けてくれて、タンディガータンディ(ありがとう)。どうしても、お礼がしたいので、目を閉じて私に付いてきてくださいますか」
娘は、言われた通りに目を閉じてしばらくあるいたさぁ。
「目を開けていいよー」と言うので、一体何が起きるんだろうと、ゆっくり目を開けたさぁ。目の前には、ねずみの親子が7人並んで立っていたよ。父さんねずみがていねいにお礼をしたあと、
「私たちの大事な四季の着物の中から、あなたには、春の着物をさしあげましょう。この着物は、袖を一振りすると、欲しい物が何でも出てきますよ。でも、このことを他人に話すと、たちまちに着物は無くなってしまうので気をつけてください」と言われたと。
それから娘は、何か欲しいときには春の着物を一振り、二振り、どんどん大金持ちになったんだってよ。みんなは不思議がってわけを聞こうとしたさ。そこでとうとう娘は、友だちに得意がって着物の秘密を話してしまったさ。すると、春の着物は、あっという間に煙になって消えてしまったさ。
娘は、たちまちもとの貧しい身の上になってしまったとさ。
(話者/ 前泊徳正=池間島)