『いたずらたぬきの話』
これは昔、熊本に住んでいたころ聞いた話じゃ。
百姓が毎日畑に出て、野良仕事に精を出していたそうな。夕方ごろになると、いつも一匹のたぬきが出てきて、近くの切り株に座ってな、百姓をからかいおるそうな。それが毎日、毎日でな、とうとう頭にきた百姓は、
「あの憎たらしいたぬきめ、なんとかひっつかまえて、たぬき汁にでもすべぇ」と考えた。いろいろ思案したあげくある日、あのたぬきが来ていつも座っている切り株な、あれにとりもちをたっぷり塗っておいて、いつものように畑仕事を始めたそうな。すると、夕方になるといつものように出てきた。でも、百姓は知らん顔で仕事を続けていたそうな。
たぬきは、いつもの切り株に座ったのはいいが、いつもと感触がちがうのでな、それで、お尻をあっちにもたげ、こっちにもたげ、クネクネしていたそうな。しめしめと思った百姓は「それ、今だ」と、走っていくと、たぬきは気がついて、ありったけの力を振り絞ってな、お尻の毛のプチプチ切れる音を残して、必死に山へ逃げ込んだそうな。百姓は「しまったー、もう少しだったのにー」と悔しがった。
もう、あたりは暗くなってきたし「そろそろ、帰るべぇ」と仕度をして、家に向かって歩いていると、どこからか、良い音色がする。おや、と耳を澄ませていると、薄暗い小屋の中からどうやら筑前琵琶と思われる音が流れているそうな。「誰がこんなところで、琵琶なんぞ弾いておるのかなー」と、そーっと、小屋に近づき、壁からのぞこうとモゾモゾしていると、いきなりポーンとひざ小僧を蹴られてしまったそうな。びっくりした百姓が、よくよく見ると、小屋と思ったのは実は馬で百姓は馬の尻をゴソゴソしていたわけやな。
近くの草むらからたぬきがぴょーんと逃げていくのが見えたそうな。百姓は「ちくしょう、まただまされた」と言って悔しがったという笑い話や。
(話者/佐渡山善栄=上野)