『しゃべるヤマガメ』
昔ね、やさしくて頭の良い弟と意地の悪い兄の二人兄弟がいました。ある日、弟が山へ薪を取りに行くと、「母(ンマ)ヌ孝行、父(アサ)ヌ孝行、うりっしっしい(さあさ、お母さん孝行、お父さん孝行、しましょうね)」とゃべるヤマガメに会いました。弟はたまげましたが、面白いものを見つけたと家に持ち帰りました。兄にそのことを話すと、「そんなばかなことがあるか」と相手にしませんでした。
そのうち、うわさが村中に伝わり、物見高い人たちは押しかけて来て、「亀がしゃべるってほんとう?聞かせて、聞かせて」と大変な騒ぎになりました。弟は「お安い御用さ、聞いた後でぼくの欲しい物なんでもくれるか」と約束して、ヤマガメを連れてきて「さぁ、話すんだ」と頭をコツンと叩くと「母の孝行、父の孝行…」。みんなはびっくり、「うわさは本当だったんだ」と言って、弟に約束の物をあげました。
それを見ていた兄は、金儲けをしようと思い、勝手に亀を連れ出し、人の多い広場にやってきました。「これから、この亀ちゃんが人間の言葉をしゃべるよー」とみんなを誘い、「本当なら、ぼくに何でもくれるか」と言って約束を取り付け「さぁ、亀吉、みんなに話してみろ」と急かしました。「・・・」亀は首をひっこめたまま、何もしゃべろうとはしません。兄はあわてて「これ!早くしゃべらんか」と怒鳴ると、亀はますます首を引っ込め無言のままです。
集まったみんなは「な~んだ、やっぱりな~」と言って呆れて帰りました。中にはだまされたと兄に石を投げて行く者もいました。兄さんは、悔しくてヤマガメを思いっきり投げつけ甲羅を割り山に捨てて帰りました。そうとはしらない弟は、「兄さん、ぼくのヤマガメ返して」と言うと、「あんなもん、山の中へ捨ててきたさ」と言うので、泣きながら探しに行き、死んでいるヤマガメを見つけ、お墓を造って丁寧に葬りました。
しばらくして、弟がそこへ行ってみると、お墓の上から天まで届きそうな大きな竹が生えていました。「あー、ぼくのヤマガメの竹だ」と抱きかかえると、ユッサ、ユッサ揺れ、米がザーザー降ってきました。それは天の米蔵を竹が突き破ったためでした。弟は面白くなって、村中のむしろを借りてきて米を集め、大金持ちになりました。
それを見ていた兄は「それじゃ、わしも」と、別のところに亀の甲羅を埋めてお墓を造りました。しばらくして、そこにも大きな竹が生えてきました。「しめしめ」兄は、竹をユッサ、ユッサ揺らしました。すると糞や汚物が落ちてきました。どうやらその竹は、天の便所を突き破ってしまったようです。「アイジャー(ありゃー)」兄は逃げ出し、弟に八つ当たりしました。
兄は考えました。「こいつがいるとどうもうまくいかない、何とかしよう」と、弟を袋に入れて海に投げ捨てることにしました。途中で、小用をもよおし、袋を道の側に降ろして繁みの中に入って行きました。そこへちょうど、海の帰りに通りかかった漁師がいて、袋に入った弟を不思議に思い、「うわぁ、のーゆがしーうー(あんたは何をしているの)」と尋ねました。弟は「この中は、なぜかお腹も空かないし、またとても気持ちがいいさー」と言うと、漁師は「まずがーてぃ、ばんまいぱっしみゅー(まずーと、わしも入ってみよう)」と言って、持っていた魚と袋を取り替えることにしました。
そうとは知らない兄は、小用から帰って漁師の入った袋を担いで行って海に投げ捨てました。「やれやれ、これで邪魔者はいなくなった」と喜んで家へ帰ると、「兄さん、おかえり、魚が炊けたよ」と弟が先に帰ってきていました。「おまえ、どこから魚を採って来たんだ」と聞くと「兄さん、だめじゃない、もっと深いところに投げてくれたら、もっと大きな魚が採れたのに」と笑っています。「まいった、こいつには勝てない」と言って、降参したそうです。
(話者/佐和田カニさん=伊良部)