『ウズの主のゆがたい』
昔、伊良部島と宮古島の間はとても遠く感じられたようですよ。そして、伊良部島の人たちは、いろいろな物資を求め平良にサバニでやってきたそうです。ところが、そんな、島と島の間に大きなフカ(鮫)が住みつき、そこを通るサバニをひっくり返しては人々を食べてしまっていたということです。伊良部の人たちはほとほと困り果てました。
そんなころ、奥伊良部の生まれでウズの主という人がらい病に冒され世をはかなんで暮らしていました。主はこの話を聞いて「こんな体で生き延びていても何の役にもたたない、むしろ害を振りまくだけだ。それより何か、みんなの役に立って死にたいものだ」と考え、あの大きな鮫と闘うことを決意しました。
さっそく、デイゴの木を切り倒して舟を造り、刀を両手に持って海に乗り出しました。途中まで行くと、うわさ通りの大鮫が水しぶきを高く上げてやってきて、主を舟ごと飲み込んでしまいました。主は、息の続く限り鮫のお腹の中で思い切り暴れ回り、内臓を滅多切りにしました。さすがの大鮫もたまりかねて暴れ回り、とうとう力尽きて息絶えてしまいました。
そして後日、長山の浜に山のような姿が打ち上げられました。伊良部の人たちはこんなめでたいことがあろうかといって、手を取り合い喜びました。それから鮫の腹を裂いてみると、中から舟と一緒にウズの主が出てきたということです。人々は「伊良部島の守り神だ」と言ってその死体を手厚く葬り、今でも島全体の人たちが、牧山にあるお墓に十月に参拝をするということです。魂は近くにあるピャーズウタキにも祀られているということですよ。
(話者/佐和田カニ=伊良部島)