『入れる口は大きく出る口は締めよ』
昔、東の家と西の家があり、東は裕福で西は貧乏でした。ある日、東と西の主がいっしょになり、「今日はムヌスーの家に行って二人の将来を占ってもらおう」ということになりました。
ムヌスーは、まず東の家の主人を占い「あんたは、一生裕福に暮らせる人だね、寝ておっても食べていけるよ。良い運をもった人だ」と言いました。ところが、西の家の貧乏者には「あんたは一生懸命働かなければいかんぞ、働いても蓄えることをしないと一生貧乏暮らしだ。そして、入れる口は大きく、出す口は締めなさい」と言いました。
それから、ムヌスーが言ったように、東の家の主は働かずに遊んでばかりいました。西の家の貧乏者は、それまで以上に働き、ミカンの木を植えたり、粟をまいたり、金になる物なら何でも植えました。そうして、少しずつ蓄えもできるようになりました。
そんなある日、東の主は、西の家の様子を見に行きました。すると、みんな畑に出ているようで誰もいませんでした。仕方なく、庭に植わったミカンの木の下でごろんと横になり帰りを待つことにしました。上を見ると、何とミカンがたわわに実っています。「おお、これはすごいなー」と起き上がろうとしてミカンの木を蹴ってしまいました。すると、実がぱらぱらと落ちてきました。
主は考えました。足を動かしただけでこんなにミカンが採れるのに、体全体を動かしたら…と思って家に戻りましたが、もう蓄えはほとんど食べつくしてしまい、どうにもならなかったようです。それに比べ、西の家の人たちは一生懸命働いたのでどんどん豊かになり、老後は幸せに暮らしたということです。
(話者/砂川泰信=城辺)