『むやみな同情 災いのもと』
ある男が、山に牛の草刈りに行ったそうです。すると、大きな石の下に頭蓋骨がありました。よくよく見ると、それには耳から耳へ杭が打ち込んであったそうです。この男は「かわいそうに、この人も神さまの子であったはずだのに、誰がこんなことをしたんだろうね」と言って、杭を抜いてやりました。
男は、草を刈り終えると急いで帰りました。ところが、その夜から眠ることができなかったそうです。そして、夜となく昼となく人の物を盗んで歩いたそうです。自分でも意識しない中でそうした行動をとっていました。家族は、呆れてしまい「昔は、こんな人じゃなかったのに」と言って不思議がりました。
とうとう妻は、ムヌスー(物知り)に頼ることにしました。すると、ムヌスーは「これは草刈りに行って、変なことをしてあるね」と言うのだそうです。そして、「頭蓋骨に杭が打ち込まれていたのは、その人は生きているとき、あくどい盗人で、神仏は、これをこのままにしておくとまた、人間に悪さをしたり、だましたりするので、おそらく杭を打ち込まれたんだろう。その人があんたの旦那に乗り移って盗人をさせているんだよ」と教えてくれました。
妻は帰ってそのことを夫に話しました。男は「これは大変だ」と言って山に出かけて行きました。そして、頭蓋骨を見つけ「こいつめ、真人間かと思って助けたのに、神仏にも見放された悪党だったのか」と言って、側にあった杭を元通りに差し込みました。それから男は元に戻ったということです。それで昔の人は「むやみな同情は災いのもと、触らぬ神にたたりなし」と、言ったそうです。
(話者/前里財義=城辺)