『来間の祭りのはなし』
昔、下地の川満にキサマあじという強い頭が住んでいました。頭は、若い頃から毎年、大勢の手下を連れ、大きな船で海を渡り遠くの国まで行って、商いをしていました。そんな頭にも悩みがありました。長年子どもをさずかることができなかったのです。
ようやく女の子に恵まれたのは、頭が年をとり、船旅を引退するようになってからでした。頭はその娘を大変かわいがりました。頭の城は遠くの島々が見渡せる丘の上にありました。城の中庭には、大きな岩がでーんと置かれていました。
ある朝、娘は一人で岩の近くに立っていると、東の海に昇ったばかりの赤いティダ(太陽)がゆらりとゆれ、矢のような光をするすると伸ばし娘をとらえました。すると、娘のおなかは、その日から大きくなり3年もの間、大きいままでした。そして、ようやく産まれたのは何と3個の卵でした。家族はみんな驚き、特に頭は「何てことだ、これは化け物の卵かもしれない、草むらに隠しておいて様子を見よう」と畑のすみに埋めておきました。
それから三ヶ月たったある日、頭が畑に行ってみると、「おじい、おじい」と呼ぶ声がします。「アバ、だれか、わしを呼ぶのは」。そこには何と卵のからをかぶった3人の男の子がいたのです。頭は、びっくりしながらも、孫ができたと喜んで3人を城に連れていきました。
ところがこの3人、たいそうな大食いで、めしを炊いてやると、三男が3升、次男が5升、長男が7升もぺろりと平らげてしまいました。食うたびに体はどんどん大きくなりますが、一度に何十人分の米を食われると、倉の米はだんだん少なくなってきました。さすがの頭も困ってしまいました。
そこで、子どものいない与那覇のあじに相談して3人をくれてやることにしました。最初、与那覇のあじは大そう喜びましたが、あまりの大食いに、ほとほとあきれ、3人を返してきました。頭は、仕方なく南の海にぽっかり浮かぶ来間島に3人を行かせることにしました。
3人は海を泳いで島に渡りました。崖をよじ登り、行ってみるとそこに人影はなく、一人のばあさんだけが島を守っていました。話をきくと、昔は千人原といって賑やかな島だったが、あるときから、島に赤牛がやってきて一人ひとりさらって行ったということでした。
3人は島の人たちを助けようと、赤牛と闘うことを決め、赤牛がやってくる東のウタキの近くで待ち伏せました。すると東の海の長干瀬から現れた赤牛が、ものすごい勢いでがけを上がってきます。兄弟は力を合わせ赤牛と闘いました。最後の止めは長男が牛の角をしっかり握って体を地面に叩きつけました。そして、1本の角をねじり、抜き取りました。さすがの赤牛も頭から血を流し逃げていきました。
次の日、3人は干潮をねらって長干瀬に行ってみることにしました。海の中をのぞき込みましたが、長男と次男には美しいサンゴだけが見えます。ところが三男には海の底に美しい娘が糸巻きをしているのが見えました。3人は海へもぐってみることにしました。娘は竜宮城の門番だったのです。いろいろ尋ね、竜宮の神さまに会わせてくれるよう頼みました。娘は、顔に怪我をおって血だらけになっている神さまのところへ案内しました。そこで、3人は、赤牛が神の化身だったことを知ります。
いろいろ、話をする中で、神さまがどうして島の人たちをさらって来たかも理解できました。実は、島は豊作が続いたために、それが当たり前とばかりに神への感謝を忘れ、祭りも行わなくなったため、神は怒り見せしめに人々をさらってきたのでした。
そこで3人は、神さまに「これからは私たちがしっかり祭りも引継ぎますので村の人たちを許してください」と誓約書に血判を押しました。また長男は持ってきた角を返すと、神さまは赤牛の姿に戻りました。そして「村人たちも返してやりたいが、目に鉛を入れられているので役にたたん」と言って、娘だけを返してくれました。
3兄弟は、娘と一緒に島に戻りました。島に一人残っていたばあさんは娘と抱き合って喜びました。実は二人は親子だったのです。それから、長男と娘は結婚して子どもをたくさんつくりました。そして、秋には豊作を神に感謝する祭りを行いました。次男も三男も結婚して子どもを増やし、それから島はどんどん人が増えて元の千人原になったということです。今でも、3兄弟の家を中心に毎年「ヤーマスプナカ」という祭りを行っています。
(話者/上地清吉=下地来間島)