『沼の化けガエル』
昔、ある男が物知りのトゥキス(カンカカリャーもしくは沖縄本島ではユタともいう)の家を訪ねると、「あんたの家では○月○日に大変なことが起こるだろう」と言われました。そう言われると男は、その日が気になって仕方ありませんでした。
とうとうその日がやってきました。すると、よちよち歩き出したばかりの息子が、朝からしきりに笑ってばかりいます。そして、外へ出て行こうとします。男は、トゥキスの言葉が気になり、門から外に出さないように抱きかかえていましたが、それでも出て行こうとするので、家族と話し合って紐で縛り柱にゆわえつけることにしました。
しばらくすると、どこからともなくひどく年老いた老婆が現れました。老婆は顔を半分覆うようにして「なんとひどいことをする人たちじゃ、こんな小さい子を。外を見たがっているんだから許してやりなさい」と言うと、そそくさと紐を解き、子どもを抱きかかえ外に出て行きました。男は、これはただ事ではないと、銛を手にすると後を追いかけました。
実は男は、老婆の正体をある程度、トゥキスに聞いていたのです。沼に住む化けガエルであることを。男は先回りして沼の側の大きな岩陰に隠れて待っていました。蛙がくると、気づかれぬよう近づき、「貴様だな、この沼に住むマズムヌは。子どもをさらって来て食べているとは」と言うと、銛でおそいかかりました。
すると、老婆は必死になって子どもを沼に投げ入れようとしました。ところが、子どもは沼まで届かず途中で落ち、仰向けにひっくり返ると、泣きわめきました。そこへ母親が心配して駆けつけ子どもを抱き上げました。男は、背中から老婆を刺し殺しました。すると、急に老婆はカーフナタになったそうです。男は、このままだと、また化けて出るかもしれないと、まきを集めて火を焚きカーフナタを焼き殺したそうです。そして、寺に行き、守り札を貰い受けました。それからは、化けガエルは出なくなったそうです。
(話者/前里財義=城辺)