『死んだ女を妻にした男』
昔から、年頃になった娘が死んでしまうと、あの世に行ってから神さまに責められるといわれます。「なぜお前は、神が使うように与えた道具を、使わずにここに来たか」という訳です。
あるところに、若いビキダツムヌ(男の独身者)が住んでいました。そこへアパラギ(美しい)娘が毎晩のようにやってきて若者を誘うのでした。若者は、相手がどこのだれか分かりませんが夢中になっていきました。ところが、若者は日に日にやせ衰えていきます。
この様子をピルマス(不思議)と思った隣の老人が、ある夜、若者の家をうかがっていると、美しい娘が出てくるので「アバ!見かけない子だね」と思って見ていました。すると、後姿になったとたん、ガラガラがい骨になったそうです。「アガイ、クリャーダイズ」(これは大変)と思って、翌朝、若者を訪ね、昨夜のことを話しました。「そんなはずはない」と打ち消していた若者だが、翌日帰っていく娘をつけて行きマズムン(幽霊)だということを確認します。
このままだと、自分も殺されてしまうと思った若者は隣の老人に相談しました。ところが時すでに遅く、娘は身ごもっていました。それでも、やれることはやっておこうと、若者は老人の教えに従い、お寺でお経を上げてもらったお札を屋敷の四つ角や門にもはっておきました。さすがにマズムンは家には入れませんでしたが、「私はあなたの子を身ごもっているのですよ、私一人でどうやって育てたらよいのですか」と恨めしそうに話しています。若者が戸惑っていると「仕方ありません、それほど私が嫌でしたら一人で育てます。その代わり、お金の形を紙に打ってください」と言うので、言われたとおりにすると、それで、生まれた子のミルクを買っていたそうです。
マズムンは、今度は大きなお金がほしいと言って、紙銭を焼いてそれに洗い米を振り掛けるように言います。若者がそのようにしてやると、マズムンは、それを持ってお店に買い物に行きます。最初は貨幣に見えるが、娘がいなくなると灰の匂いのするただの洗い米に変わっています。たびたびだまされた店の主人が入り口などに守り札を貼り付けると、それからはもう、来なくなったというはなしです。
(話者/前里財義=城辺)