『鬼退治の三つの玉』
昔、一人の若者がおった。あるとき若者は思った。「こんな小さな村にいただけでは、世の中のことが分からない。いろんな村や島を見て学んでこよう」と思い、旅に出ることにしました。
旅支度を整え、いそいそと出かけました。村の嶺をこえて、歩きつかれた頃、前をよろよろと歩くみすぼらしい老人を見かけました。そのまま追い越そうと思ったが、今にも倒れそうなので、若者は「大丈夫ですか、よかったら私が途中まで背負ってあげよう」と言って、老人をおぶりました。
しばらく行くと、老人は「ああー、もうよい、疲れはとれたようだ、ほんとにありがとう」と話し、二人はしばらく座っていろいろ話し込みました。若者が旅に出た訳を聞き、「そうか、君はいろんなことを学ぶために出てきたんだな」と感心し、「ただ、道中はいろんなことがあるだろう。危険な目に会ったら、この三つの玉を使いなさい。投げると一つは水、二つ目は山、三つ目は火の玉だ」と言い残し、いつの間に消えていた。
若者は、不思議なじいさんだと思い、三つの玉を着物の袖に大事にしまった。それから村々、島々を旅して、牛馬の飼い方や、農作物の作り方などを学び、いよいよ自分の村でそれを生かそうと帰路についた。途中、人里はなれたところで一軒の家を見つけた。少し休ませてもらおうと、「ごめん、スサレー」と声をかけた。暗い家の中からぬーっと出てきたのは鬼だった。家の中は生臭く、どうやら、山に迷い込んだ男や女をつかまえて食べている様子だった。しまったと思った若者はその場を逃げようと思い走り出した。すると、後ろから、「オレの食べ物が逃げていくー」と言って追いかけてくる。若者は、必死で走った。途中で、あのじいさんからもらった三つの玉のことを思い出し、「そうだ」と言って、まず最初の玉に息を吹きかけ思い切り投げた。若者と鬼の間には、大きな川ができた。ところが、鬼は水の上を走って追いかけてくる。
若者は、今度は二つ目の玉を取り出し、また息を吹きかけ投げつけた。すると、若者と鬼の間には大きな山ができたが、鬼は山も何のその、とげとげのアダンの木やサルカケミカンもかき分けて追いかけて来るのだった。若者は「それならば」と最後の三つ目の玉を投げつけると、それは火の玉で山火事が起こりました。鬼は火には勝てずとうとう、焼け死んでしまいました。若者は、あのよぼよぼのじいさんのお陰で命拾いしたのだった。実は、じいさんは、神様で、正直な人たちを助ける役目だったようです。
若者は、神様に助けられ、またいろいろ学んだことを生活に生かしたので、成功し、幸せに暮らしたということです。
(話者/前里財義=城辺)