﹃ガマク婆ばばの話はなし﹄
昔むかし、十じゅう二に歳さいになる農のう家かの男おとこの子こが平ひら良らにダイコン売うりに行いったそうです。ダイコンをもっこに入いれ、馬うまに乗のせて行いきました。途と中ちゅうまで行いくと、道みちの真まん中なかに目めの落おちくぼんだ婆ばあさんが立たちはだかっています。その婆ばあさんは実じつはみんなが恐おそれているガマク婆ばあさんでした。子こどもは﹁オゴエ!﹂と言いって立たちすくみました。
﹁おい、やらびよ、そのダイコンをこっちへよこせ!渡わたさぬとお前まえを食くうぞ﹂と言いいます。子こどもは怖こわくなってモッコの中なかのダイコンを半はん分ぶんわたしました。﹁もっと、わたさぬか、全ぜん部ぶわたせ、わたさぬと、お前まえを食くうぞ﹂とおどします。子こどもは仕し方かたなく、全ぜん部ぶわたしました。すると、今こん度どは、
﹁その馬うまもよこせ、よこさぬとお前まえを食くうぞ﹂。子こどもはこのままだともう食くわれてしまうと思おもい、馬うまも放はなして山やま奥おくへ逃にげました。奥おくへ奥おくへと行いったところで大おおきな二に階かい建てだの立りっ派ぱな家いえがありました。不ふ思し議ぎに思おもいながらも子こどもはその中なかへ入はいってみました。台だい所どころには大おおきな鍋なべがあり、側そばにはたきぎなども置おいてありました。階かい段だんがあるので子こどもは二に階かいへ上あがってみました。そこへ家いえの主ぬしが帰かえってきました。なんと、あのガマク婆ばあさんでした。子こどもは﹁しまっ
た﹂と思おもいましたが、とにかく隠かくれることにしました。
ガマク婆ばあさんは﹁ああ、食くった、食くった﹂と言いいながら息いきを切きらして帰かえってきました。台だい所どころに座すわり込こみタバコを吸すいはじめました。そして、﹁今きょ日うは二に階かいで寝ねようかな、それとも鍋なべの中なかがいいかな﹂とつぶやいています。それを聞きいた子こどもは、二に階かいに来きたらどうしようと、ぶるぶるふるえていました。するとガマク婆ばあさんは、、﹁やっぱり今きょ日うは寒さむいから、鍋なべの中なかにしよう﹂
しばらくすると、鍋なべの中なかから大おおいびきが聞きこえてきました。よく眠ねむっている様よう子すです。子こどもは胸むねをなでおろし、一いっ階かいに降おり鍋なべぶたをしっかり閉しめ大おおきな石いしを乗のせました。そして、薪まきをばんばん燃もやしました。こうして、子こどもは鬼おにを退たい治じし、ガマク婆ばあさんの家いえにあった財ざい宝ほうをいただき、裕ゆう福ふくに暮くらしたということです。
︵話わ者しゃ/花はな城しろカマド=上うえ野の︶︶