『位牌の由来』
昔、とても仲の良い母親と息子の親子が二人で住んでいました。ところが、息子の方は大きくなるにつれ、お酒が好きになって、毎晩飲むようになりました。それは次第に量が増え昼間でものむようになってしまい、あれほど親孝行だった息子は母親のことも忘れて昼日中から酔っぱらってふらふら歩き回るようになりました。母親はそんな息子が心配で、いつも後ろから探し回りました。
そんなある日、驚くような大雨が降り出したので母親は「ああ、こんな雨降りにばか息子はどこへ行ったんだろう」と思いながら、だんだん心配になってきて外に出て捜すことにしました。雨に打たれながら、母親は方々捜しましたが見つかりません。
ちょうど、丸木橋の辺りまで来ました。そこは、丸木が二本かけられただけの粗末な橋で、下は水がゴンゴン流れていました。「ひょっとしたら、息子のやつ、ここを渡ろうとして滑り落ちたかもしれない」と思うと母親はじっとしておれず、その橋に足を踏み入れたとたん、流れに飲み込まれて死んでしまいました。
そうとは知らない息子は、雨が止んでから家に帰ってみると母親の姿がありません。心配になって隣の人に聞いてみると「何でいまごろ帰ってくるの?君の母親は君を捜しに行って、大水に飲み込まれてしまったようだよ」と冷たく言い放ちました。息子はびっくりして酔いも覚め、外へ飛び出し川沿いを必死になって捜し回りました。
一番危険な橋の辺りを捜しましたが、見つからず橋の丸木だけが川下に流れ着いていました。息子は「アガイ!この木と一緒に母さんは流されたはずだ」と思い、その丸太を家に持ち帰り、庭に安置していつもこの木を拝んでいました。それを見た叔父さんは、そのままじゃ、木も朽ちてしまう、叔父さんが何とかしようといって、その木を削り、神棚に置けるようにしました。「朝夕、これに拝んだらいいさ」と言って。それを位牌と呼びました。
そうです、あれは酒飲みのろくでなしが始めたということです。母親が居なくなった後で今からでも親孝行しないといけないと言って、朝夕お茶や菓子を供え信仰したということです。それを見ていた人たちも見習うようになり、人が死んだら位牌を作るようになったという話です。
(話者/前里財義=城辺)