『ユガラ鳥の話』
昔、ある家に正直な嫁がいました。ある年、大きな台風がきて村中が大変な食糧飢饉にみまわれました。畑で取れるような物といったら細長い根っこのようなおイモばかりです。嫁はそんなイモでも一生懸命集めて家族のために必死に働きました。集めたイモはつぶして家族にあげ、自分はイモ畑にあるフクナズウを採ってきてイモの上で蒸し、水に浸して食べるのでした。
昔は薬も栄養剤もありません。ただ、長くなった味噌を小さく丸めて熱い灰の中にいぶし、それをお湯で溶かして飲むと栄養が補給されるという話はありましたが、その味噌でさえ金持ちの家にしかありませんでした。普段から味噌を使っている金持ちの家の人たちは、色つやもよく元気がありましたが、貧乏な家の人たちは、お汁も海水を汲んで来て使っていたので、顔色も悪く青ざめていて、中には栄養不良で倒れる人たちもいたそうです。
ところが、その嫁はなぜか、色つやがよく元気でしたので、周りの人たちは怪しんでこんなことをささやき、家族にも聞こえるような陰口をたたきました。「お前さんとこの嫁は、イモ掘ってきても自分でほとんど食べ、残りを家族にあげているんじゃないか」。そのうち、姑も疑いだし、「お前は、ずいぶん色つやがいいね、やっぱり隣の人たちの噂はほんとうみたいね」と嫌味をいいました。
嫁はびっくりして「お母さん、とんでもありません、誰がそんなことを」。「だって、今どき、そんなに顔色を良くしていられるのは、金持ちとお前ぐらいだからさ」と姑は追い討ちをかけます。嫁は悲しくなって言葉も出ませんでした。「私がどんな思いで食糧を探し、それでも自分は雑草だけを食べているのに」と思うと、悔しくて涙が止まりませんでした。そして、「そこまで言うのでしたら、見ていてください」と言うなり、包丁を持ち出し、お腹を十文字に切り裂き息絶えました。お腹の中からはフクナズウのかすしか見当たりません。姑は、「すまない、すまない」と言って泣き崩れました。*
それから、嫁の魂は、ユガラ鳥になって飛んでいきました。嫁は根が正直だったので、ユガラ鳥は陰口や告げ口をする人がいれば夜明け方悲しそうに鳴くし、悪い人がいれば怒ったように鳴くし、災いが起こる前には夜中から騒がしく鳴き回るということです。村人たちはこうしたユガラ鳥を大事にし、いろいろな教訓をいただいたそうです。
(話者/前里財儀=城辺)
*注
お嫁さんは自分はうそをついていないと自分のことばを証明するために死んでしまいました。