『婆、いるか』
これは沖縄の話なんだが、昔ね、仲の良いおじいさんとおばあさんが暮らしていました。ある日、もうそろそろ年だし、先行きが分からないので二人は相談しました。
「死んでも別れるのは辛いから、先に死んだほうを、家のウプフツガミの中に入れて置いて一緒に生活しようね」と、おじいさんが提案しました。
しばらくして、おじいさんが先に死んでしまったので、おばあさんはていねいにカメに入れて今まで通り、朝にはお茶を入れてあげるし、夜にはお酒を出して「さぁ、おあがりなさい」と言って勧めながら、おじいさんに話しかけました。
そこへあるとき、マース(塩)売りがやってきました。おばあさんは、「ちょっと、お兄さん、マースを一マスおくれ」と言いました。ところが、そのマース売りはあいにく枡を隣に忘れて来ていて、仕方ないのでおばあさんは「どれ、わしが取ってくるので、その間、留守番していてくれ。ただ、私が居ない間にウーニという声がしたら、はいと返事をしておくのだぞ」
ばあさんが言った後、マース売りは、不思議なことを言うもんだと思いながら待っていました。しばらくすると、家の奥から「ウーニ、ウーニ」という声がする。あれ、ほんとに声がするよ、マース売りは辺りを見渡しましたが、人影はありません。それでも声はする。不思議に思いながらも声のするカメのところへ近づいて行きました。口の大きい瓶なので、ついひょいと覗き込みました。
「うわー」そこには、ミイラ状態のじいさんが座っていました。あまりの怖さに持っていた塩をじいさんにぶっ掛け逃げ去りました。塩をかぶったじいさんは、もう何もしゃべらなくなってしまいました。
そんなことがあって、昔の人たちは、死んだ人と生きた人を切り離すために塩をまいたということです。塩はそんな役目もあるんだよ、大事に使おうね。
(話者/狩俣寛教=上野)