宮古島のんきゃーんじゅく(諺)

▼ 宮古島のことわざ、「んきゃーんじゅく(先人の知恵)」を口にする

沖縄県の宮古島市で現在、「宮古語」をすらすら話せる話者が、ここ50年間でかなり減っています。かつては、宮古語は日常生活で普通に使われていました。どうして宮古語を使わなくなってしまったのでしょうか。

宮古語は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が発表した、世界にある消滅の危機に瀕する言語(消滅危機言語, endangered languages)の一つに挙げられています。消滅危機言語に至った理由は、明治まで遡ります。日本政府は1872年(明治5)に琉球国を廃して琉球藩とし、さらに、1879年(明治12)に沖縄県としました。この史実と消滅危機言語になった理由が関係しています。日本の沖縄県になったということは、「日本語」が社会で使われる言語となり、日本語を話すことが重要になったということです。

宮古島でも、日本語の「標準語」による学校教育が始まりました。ただ日本語で授業が行われたのではなく、日本語しか使ってはいけない、つまり教室の中では日本語以外を使うと「方言札」という罰則の札が子どもたちの首にかけられたという歴史がありました。日本語を使うことはいいけれど、宮古語は使ってはいけないという強いメッセージが学校を通して子どもやその家族に伝えられたのです。

21世紀に入り、2005年に6つの島(池間島、大神島、宮古島、伊良部島、下地島、来間島)が統合されて、一つの「宮古島市」という名称になりましたが、それぞれの島や集落で築かれたの独自の文化や歴史、「ことば」は現存しています。ですので、実際には「宮古語」という一つの標準語化された「言語」があるのではなく、宮古語の言語体系の下に30から40の集落ごとの話しことばがあり、これらを総称して「宮古語」といっているわけです。

宮古語を残すために何ができるか、さどやませいこさんと私とで考えた時、宮古語と先人の知恵を「カルタ」で残すこの小さい試みが2019年から始まりました。ことわざは、宮古語で「んきゃーんじゅく(先人の知恵)」、また、「黄金言葉」といいますが、短いことわざの一つ一つに、昔の宮古島の自然と生活風景が色濃く残されています。このカルタのことわざは、1950年宮古島の城辺の生まれのせいこさんが、お母さんが自分に言っていたことわざの中から選びました。「んきゃーんじゅく」は、親から子どもに伝える、生活の中で息づいた、先人たちの知恵でした。せいこさんにはご自身のことわざの「語り部」になっていただき、カルタの絵札と読み札の音声(城辺の発音)もお願いしました。

21世紀の宮古島市の子どもたちは、せいこさんの時代とは異なる時代を生きています。けれども、毎年の台風の被害、亜熱帯独特の豊かな自然(植物や生き物)、そこから生まれる宮古独自の文化やユーモアなどは、時代を越えて共通しているものもあります。宮古島の先人の知恵と宮古語を切り口に、今の時代を読み解くこともできるのではないでしょうか。

▼ 宮古語の音声について

宮古語をはじめ、琉球諸語は「話しことば」なので、書記言語がなく、統一された正書法もありません。小川晋史編(2015)『琉球のことばの書き方』に代表されるように、近年では日本語のひらがながその表記に使われるようになりましたが、日本語にない発音に関しては、宮古語の独自の発音表記が必要になります。

宮古語の音の表記も研究者により異なります。このカルタに関しては、せいこさんの主観に従い、藤田ラウンドが表記を整えました。一番いいのは、せいこさんの発音をご自身の耳で聴いて、発音練習をしてみることです。このカルタの読み札に出てくるのは宮古語の音声表で日本語にないものは、「き°」「す°」「う″ 」です。また、音を伸ばす長音は、「ー」としました。

▼ 英語訳

1 あうんたびぁー かき°たび
「かけがえのない旅にするためには、事前の準備が大事である。」
An attentive mind will make your travels better.

2 あかびーすぬ とぅびちかぁ うぷかじぬ どぅふき°
「赤とんぼが群れて飛ぶのは、台風が来ることを知らせている。」
When red dragonflies take off, a strong wind will blow.

3 あぐがぱな どぅすがぱな
「数多くいるどの友達よりも、自分の子どもは花のように輝いてほしい。」
Parents wish for their children to blossom the most beautifully.

4 あさにがらぁ うやき ゆうにがらぁ がき°
「早起きは金持ちに、夜更かしは食いしん坊にしかならない。=(日本語)早起きは三文の徳。」
The early riser becomes prosperous, while the nightbird becomes a glutton.

5 あとぅだまどぅ うぷだま
「よくばって先に取るよりも後の方が大きい。=(日本語)残り物には福がある。」
Gifts that come later are the greatest gifts of all.

6 あらさどぅ かぎさ
「着飾らなくても、自分が持っている素に近い方が美しい。」
The plainer, the more beautiful.

7 いだしぃからぬ むぬす°ぁ とぅりゃー ふくまいん
「一度、口から出してしまった言葉は二度と口には戻らない。」
Once spoken, words will never return to one's mouth.

8 いつなしば いつすな とぅーなしば とぅーすな
「五人いれば五人それぞれの性格、十人いれば十人それぞれの性格=(日本語)十人十色(じゅうにんといろ)。」
Five different people will have five different personalities. Ten different people will have ten different personalities.

9 いつぬぅ ういびゃー うつんかいどぅ ぶらい
「五本の指は、内側にしか折れない。=みんなで心を合わせ結束することが何よりも大事。」
All five fingers bend inwards.

10 いんぬぱーぬん
「犬は自分の体についているノミを噛み殺そうとしても、噛み合わせが悪いので滅多にはできない。それができたら奇跡的であるという意味で使う。」
The dog's teeth cannot kill a flea.

11 ういぴとぅあ やぁぬ たから
「経験豊富なお年寄りは家の宝である。」
The elderly are the treasures of a family.

12 うぷかじや ふきいどぅ やばん
「台風が発生すると、風は吹き荒れるが、いつかは終わるものである。」
Even if a great wind blows, it must cease sometime.

13 かたてぃ しぃや てぃちょうや ならん
「片手では、拍手はできない。人の和、相手との協調が大切だ。」
You cannot clap with one hand.

14 かなっさどぅ あぱらぎさ
「愛おしいと思えば、自然と美しいと感じる。=(日本語)あばたもえくぼ。」
When something is dear to you, it seems beautiful.

15 き°ぬうや ぴとぅぬうい きゅうや どぅーぬうい
「人の幸、不幸はいつ起きるかわからない。=(日本語)備えあれば、憂いなし。」
Your neighbor's troubles from yesterday, are your troubles today.

16 き°んな ようかり どぅや つうかり
「着る物は弱くても、体が強ければいい。親は子どもの健康を祈ってこのことわざを唱えた。」
So long as your body is strong, it doesn't matter if your clothes are weak.

17 くぱぎぃぬどぅ ぶりやすかぁ
「自分の言い分だけを通そうとすると失敗する。柔軟になることが大切。」
A stiff tree easily breaks.

18 こうさどぅ やどぅゆん
「貧しいとけんかが増える。離島の宮古は、昔、ほとんどの家は貧しく、けんかも日常茶飯事であった。」
Where there is poverty, there is fighting.

19 さぐなぬ みずだき みどぅんぬき°む
「貝が水を吐き出す様子は、女性の心のようだ=女性はしゃしゃり出ず、しとやかにしている方がよい(と昔は考えられていた)。」
As the shellfish softly releases water, so must a woman's heart be humble.

20 しぃからどぅ むぅーやぱい
「岩礁に瀬があるからこそ、海藻ができるように、すべての物事は原因と結果で成り立っている。基礎が大切であるという意味。」
Seaweed grows because of the tidal pool.

21 すぅぬぴしんどぅ あさす°ばぁ しぃーる
「干潮にこそ、潮干狩りはするもの。=チャンスを見逃すな。」
Dig for clams at low tide.

22 すつぬ とぅす°ゃ すつんどぅ みいらぃ
「毎年必ず同じ季節にやって来る渡り鳥を見習う。=好機を逃さずに実行する。」
You can only see the migrating hawk once a year.

23 すでぃぐる ばっし がーす
「抜け殻を忘れたセミ。=人から受けた恩を忘れてはいけない。」
A person who forgets a favor is like a cicada that forgets about its cocoon.

24 たかぬ まうつかぁ がらさぁまいどぅ まう
「鷹の真似をして、烏も舞う。=他の人の真似をするのではなく、身の程をわきまえて振る舞う。人まねではなく、自分を知れ。」
When the hawk dances, so do the crows.

25 たまずみっずぁ ふさりどぅす
「沼や窪地(くぼち)の水たまりの水は、淀(よど)んで腐(くさ)るものである。=心の汚れは次第にその人を蝕(むしば)む。」
Still water stagnates.

26 てぃんみぃ がらさぁ
「天を雲は動いてしまうのに、雲を目印に獲物を隠す烏。=知恵のない人は考えもなしに行動をする。」

27 とぅすぬくぅや かみぬくぅ まさず
「年長者は長年の経験から、若者には及ばない知恵や技能がある。=(日本語)亀の甲より年の功。」
Only the crows trust the clouds.

28 とぅばす かんなぁ どぅーが やぁゆ とぅみらいん
「慌てるカニは自分の家も見つけられない。焦ると失敗をするので、急ぐほど落ち着いて行動をしなさい。=(日本語)急がば回れ。」
The wisdom of age beats even the turtle's shell.

29 どおゔぁ つかうどぅ ぱだ
「道具は使うほど良くなる。=使えば使うほど人の才能は光り、放っておけば錆がつく。」
The more you use a tool, the better it becomes.

30 なから ぐぴんぬどぅ ゆるき°
「中味の少ない瓶ほど音が高く響く。=知恵のない人ほど声が大きく失敗することが多い。」
A glass bottle that is empty makes more noise.

31 なつぬ あみゃー うすぬ かたどぅ
「夏の雨は牛の片側だけをぬらす程度の雨である。」
A tropical summer shower only wets one side of a cow.

32 にぃからどぅ すぅらーぱい
「根から枝は生える=努力をして人並み以上の苦労をすることで根を張り、立派な成人となる。ものごとには順序がある。」
Branches grow from roots.

33 にぬぱぶすどぅ みあてぃ
「北極星が目当て。=親は子を目当てに子どものために日々努力し、子もまた親を羅針盤として生活をする。」
The North Star is a guide.

34 にんぎんなぁ てぃかたー ぬくっすぅが ぴさかたぁ ぬくらん
「人の手で創作された作品は後年まで残るが、作品として残らなければその人の足跡は残らない。」
Things created by people's hands will last, but footprints will not.

35 にんぎんなぁ むぬす°ぬどぅ わーなず
「人と話すときには、よく考えて慎重に言葉を選ばなくてはならない。=(日本語)口は災いの元。」
Words can create enemies.

36 ぬぬ ぬ かぎさぁ かしんどぅゆず
「布の美しさは織り糸の質による。=基本が大事だ。」
The beauty of a cloth is determined by its yarn.

37 ばらうぬ ばたふすす°
「笑うことは何よりの薬になる。」
Laughter is the greatest medicine.

38 ぱりん あみぃてぃや にゃーん
「晴れない雨はない。不幸はいつまでも続かない。」
There is no rain that will not turn to sunshine.

39 びぃんな ふさ たつんな ふさ
「赤ちゃんは座った時、立った時にふさ(知恵熱)が出る。昔は病院もなかったので、経験者が初めて子どもを育てる人に自分の経験を伝えた。」
Children get fevers when they learn to sit and stand.

40 ぴとぅあ ぴとぅぬみぃ きぃや きぃぬみぃ
「人は人の中で育ち、木もまた木の中で育つ。=自分が置かれた環境の中で成長する。」
People grow amongst people. Trees grow amongst trees.

41 まいんかいまい ゆざさぃん ちびんかいまい むどぅらぃん
「時間や齢は、前にも寄せられないし、後ろにも戻せない。=人にはどうすることも出来ないことがある。」
Time cannot be brought forward or put back.

42 みいたらぁすぬ かぎさ
「大目に見てやることが、他人とうまくいく秘けつである。」
It is important to have a forgiving eye.

43 みいなりどぅ き°き°なず
「人は、見たり聞いたりして、自然に習得するものである。」
People learn from observing and listening.

44 やぁすさどぅ んまさ
「お腹が減っているときは、どんな食べ物もごちそうになる。」
Any food when you are hungry is a feast.

45 やぁなりどぅ ぷかなり
「家での習慣が外の習慣になる。=家での親のしつけが悪いと子どもが外に出た時にそれが出てしまう、家庭でのしつけが大事。」
Your habits in your home become your habits in public.

46 んきゃーんぴとぅぬ とぅつき°んな あます°や にゃーん
「先人の教えに無駄はない。」
The wisdom of your predecessor is priceless.

47 んまりつかぁ んーな ゆぬとぅす
「生まれたら皆おなじ年齢。=地球上の人すべてが今、共に生きる仲間である。」
Once you are born, you are the same age as everyone else.

48 んむぬぴぃ うんぬぴぃ   
「一人の人間が違うものを食べるとおならの匂いが違うように、人には裏と表がある。真実を知るためには人を見る目を養わなければならない。」
Your farts after eating sweet potatoes are different from those after eating sea urchin.

▼ 参考書籍

新里博(2003)『宮古古諺音義―――上代倭語の化石:宮古方言の手引き』渋谷書言大学事務局

浦崎安常編(1981)『宮古の俚諺・格言』自費出版

大川恵良編(1974)『伊良部郷土誌』山一出版印刷社・自費出版

佐渡山政子編(1994)『んきゃーんじゅく:宮古のことわざ』かたりべ出版・自費出版

仲井真元楷編(1982)『沖縄のことわざ辞典』月刊沖縄社

中村正一編(2014)『久松の黄金言葉』自費出版

平良市史編さん委員会編(1978)『平良市史第七巻資料編5:民俗・歌謡』平良市教育委員会

外間守善・新里幸昭編(1978)『南島歌謡大成第三巻宮古篇』角川書店

吉村玄得編(1974)『沖縄宮古ことわざ全集』自費出版