5. 宮古島 伝承の旅ウェブサイトについて

2016年2月
宮古島 伝承の旅ウェブサイトについて

5-1. ウェブサイトができるまでの経緯

このウェブサイトは2015年の秋に、Linguapax Asia(リングァパックス アジア)を通してバルセロナに本部のあるLinguapax(リングァパックス)から活動予算をいただき、制作することができました。また、今後は藤田ラウンド幸世代表の科学研究費助成基盤研究(c)15K02659「日本のマルティリンガリズムの総合的研究:多文化共生につながる教育を求めて」の一環として、宮古島の子どもたちへの教育支援の目的で時間をかけて完成をさせていきます。

5-2. ウェブサイト上の民話について

このウェブサイト上の民話は、1970年代に「宮古民話の会」のみなさんたちが、宮古島を中心とする、宮古諸島の島々のおばあやおじいから直接語ってもらった民話が元となっています。語り部のみなさんが直接語り、その語りを会の皆さんで文字起こし、日本語に訳したものが、基盤となっています。さどやませいこさんはこの会のお一人ですが、これまで民話を伝えるためにさまざまな形で努力をしてこられたお一人でもあります。

こうして日本語として整ってきた民話ですが、このウェブサイトに載せる民話に関しては、さどやませいこさんご自身のことばで後述されていますが、さどやませいこさんがさらに子ども向けに監修して読みやすくしたものとなっています。

ウェブサイトの全体の監修、編集作業、コンセプトの責任は藤田ラウンドにありますが、このウェブサイト全体は、さどやませいこさんが継続して手を加え愛しんできた民話とご自身が描かれた挿絵がなければなりたちません。ですので、次に、さどやませいこさんのプロフィールと思いをご自身のことばで語っていただくことにします。

藤田ふじたラウンド さち

立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科

5-3. さどやませいこさんから「宮古島 伝承の旅」について

【5-3-1 スマ(島)の宝、島の共有財産】

2013年『宮古島の民話百選(上)』を上梓してから1年と数ヶ月が経ちました。思いだけで突っ走った出版でしたが、関心のある方たちからは「宮古にこんなお話があったんですね」と励ましのお言葉をいただきました。何より、30数年前に出会った話者佐和田カニさんのご仏前に、約束を果たせたことの報告が出来たことは何よりでした。あの時、出会いがなければ、この宝物は話者たちと共に葬られたことでしょう。残されたこのお話は島の共有財産だと考えます。島の先人たちが、大事に語り継いだ宝物だからです。

民話は、太陽や月、星、山、木、岩など森羅万象に加え、人間に始まって牛や馬などの家畜、鳥、蛇、ネズミ、昆虫に至るまでこの世に住むすべてのものが主人公となって登場します。特に動物昔話は擬人化されて数多く語られ、この地球上には人間だけが住んでいるのではないということを教えてくれます。

【5-3-2 見えないものや世界に大切なことが】

私たち現代人は、普段から目に見える世界しか信じようとしません。見えない世界に大切なものがあることを忘れかけています。空気、時間、言葉、これらは目には見えませんが、一つでも欠けたら人間の営みが損なわれてしまいます。地球が誕生して約46億年といわれます。そして、40億年前、海底で初めて生命体が誕生し、それから250万年前に私たちの先祖といわれるホモ・サピエンスがアフリカで誕生しますが、それまでには獰猛な生き物たちも誕生していて、それらを恐れて長い年月洞窟での生活を強いられたようです。

人間が文明を手に入れたのは言葉だといわれます。コミュニケーションの手段によって全世界に広がっていきました。さらに文字を使うことによって今の文化や文明を築くことができました。この長い歴史の中で、地球がどんな変化を遂げてきたかを考えると気が遠くなります。地球の歴史は絶滅の歴史だといわれます。生物が誕生してから地球環境のさまざまな変化に対応できず多くの生き物が淘汰されています。私たちは、生きている今が全てのように思いますが、地球がこれまでどんな変化を繰り返してきたかを思うとき、民話はまさに地球の記憶を辿る記録かも知れません。

【5-3-3 民話は傲慢になり過ぎた人間への警告】

私たち人間は、地球上をすべてコントロールできると思うほど傲慢になっています。インターネットによる事件が多発し考えられないような凶悪な事件も増えています。人間が他の生き物の存在を省みない結果かもしれません。地球も一つの命、そして家族というのであれば、様々な生き物と共存していることを意識する必要があるでしょう。これから紹介する動物昔話や、創世神話、卵生説話、日光感精説話、異類婚譚は、こうした文明の行き過ぎに「もう少し、ヌカーヌカ(ゆっくり)歩こう」と言っているような気がしてなりません。

【5-3-4 おわりに】

今の子どもたちは、テレビがあり、ラジオがあり、電話があり、インターネットがあり、そして暇があります。有り有りずくめで物質的に満たされ過ぎています。だからといって、本当に幸せでしょうか。それに比べて昔は何も無かった。この違いは何だろうと考えたときに、ひとは満たされているから必ずしも幸せではないということです。30数年前に当時、70代から80代のお年寄りたちから「んきゃーんばなす」を聴きました。方言しか話せない方たちが豊かな精神世界を私たちに数多く話してくださいました。何も無かった時代の楽しみは、お互いんきゃーんばなすを話したり、聴いたりすることでした。

人間は、言葉や文字を手に入れたことによって、他の生き物たちとは違う大事な想像力を身につけました。それはいま、文化や文明となっていま開花しているわけですが、現代人を大きく二つに分けたとも考えられます。与える側と与えられる側に。昔は何も無いので皆自分たちで工夫しなければ生きていけませんでした。いまは、お金さえあれば何でも手に入れられる時代、大方の人たちが工夫もしなければ、想像もしなくなりました。子どものころから、こうした社会に慣れてくると、この先、どうなるのでしょうか。

自立できない子どもや大人が増えています。作家の松居友さんは『昔話と心の自立』の中で「昔話の中にはこころの自立のヒントが隠されている」と記し、精神世界を豊かにするために子どものころから昔話に慣れ親しむことを勧めています。昔話には、生きる上での知恵や対策が詰まっているからです。

さどやませいこ

んきゃーん塾主宰

【プロフィール】

さどやま せいこ(佐渡山 政子)

1950 (昭和25) 年城辺で生まれる。
1976 (昭和51) 年「宮古民話の会」に入会。
1981 (昭和56) 年絵画サークル「彩の会」入会。
1982 (昭和57) 年宮古毎日新聞社に入社。
1986 (昭和61) 年俳句同好会「藍の会」入会。
1990 (平成2) 年宮古毎日新聞社を退社し、かたりべ出版を始める。
1992 (平成4) 年平良市総合文化祭エッセーの部で「市長賞」
1993 (平成5) 年絵画サークル「二季会」入会。
琉球新報・児童文学賞で「佳作」受賞。
宮古島市文化祭エッセーの部で「優秀賞」受賞。
1998 (平成10) 年宮古毎日新聞社に復職。
11月に琉球新報・「短編小説賞」(27回目)受賞。
1999 (平成11) 年「平良好児賞」(3回目)受賞。
2000 (平成12) 年宮古毎日新聞社を退社
2006 (平成18) 年宮古毎日新聞社にフリーとして復職。
2014 (平成26) 年宮古毎日新聞社退社。「んきゃーん塾」を主宰し、宮古島の伝承活動を再開する。
著書に、
諺集『んきゃーんじゅく』、
『みやこのみんわ』(1~3、共著)
『みやこの民話―動物編』
『宮古島の民話百選(上)』『(下)』などがある。

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